「病は気から」が本当に正しいことが科学的に証明された!?
健康の分かれ道は”気”shutterstock.com
大阪大学の研究グループは交感神経が分泌する神経伝達物質ノルアドレナリンがリンパ球に働きかける仕組みを分子レベルで解明し、ストレスや気分といった精神的な作用が実際に免疫反応に影響することを実験で証明したと発表、米国科学誌「The Journal of Experimental Medicine(JEM)のオンライン速報版で公開された。
私たちがよく口にする「病は気から」という言葉がある。一般的には、気分が落ち込んだり、塞いだりすると、体調も崩れ病気になる、あるいは逆に必ず治るという希望や助かりたいという強い気持ちによっても、病気はよい方向に向かうなどというイメージが普通だろう。
しかし、もともと「気」は中国哲学では万物の構成要素を意味する。感情や気分の意味ではない。万物を動かしている気の法則に反したときに病気になる、ということなのだ。中医の身体観では、「気」「水」「血」という3つの機能がバランス良く機能している時に健康であると考えてきた。
この考え方を強引に西洋医学的で機能的な身体感に対応させると「気」は、現代医学の言葉で言うと「自律神経」、「血」というのは、「血液」「循環器系」、「水」というのは、「リンパ」「免疫機能系」に当たるかもしれない。つまり今回の研究は、自律神経と免疫機能系の関連性の問題だと理解できる。
今回の研究では、ストレスや情動の作用が病気に繋がることがよく言われていたが、実際に神経系の作用がどのようにして免疫系に影響を及ぼすかを分子レベルで解明することにあった。神経系と免疫系がどのような関係性を持つのか、その分子レベルでのメカニズムは現在でもなお十分に理解されていない。
特に交感神経は、ストレスや情動による中枢神経の活動性の変化を全身の臓器へと伝える主要な経路であることから、神経系による免疫調節においても中心的な役割を果たしていると考えられる。さらに最近の健康志向の高まりの中では、ストレスが免疫力を低下させるなどの説が注目されるようになり、こうした説のエビデンスを求める声も高まっていた。しかし、そのメカニズムに関しては十分な科学的根拠が得られていないため、研究グループは、交感神経が免疫に及ぼす影響とそのメカニズムについての解明に取り組んでいた。
炎症性の疾患も神経系と免疫系が関与
研究グループは、免疫反応がおきるリンパ器官で、交感神経から分泌される神経伝達物質ノルアドレナリンに着目。マウスを使ったレベルの実験では、ノルアドレナリンの受容体のひとつβ2アドレナリン受容体のほうを刺激すると、リンパ球のリンパ節への保持を促す信号を受け取るケモカイン受容体の感受性が高まることがわかった。
このβ2アドレナリン受容体とケモカイン受容体の2つは、そのバランスによって、リンパ球がリンパ節から血中に放出されるかリンパ節に保持されるのかが決まるため、神経系と免疫系の橋渡しとして機能するという。
この研究では、神経伝達物質(神経系)と免疫機構(免疫系)がリンパ節で連動していることを分子レベルで確認しただけではなく、さらに多発性硬化症とアレルギー性皮膚炎のマウスモデルに対して実験が行われている。その結果、β2アドレナリン受容体の刺激薬を投与すると病気の進行が抑えられた。また、β2アドレナリン受容体が欠損するように遺伝子操作したマウスでは病気が重くなることも確認した。神経系と免疫系を関連づけるメカニズムは炎症性疾患の病態にも関与することが示された。
古の人々の慧眼がまたひとつ現代の科学で証明されつつある。
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